2017年8月19日土曜日

センチメンタルな旅


 ここ数ヶ月なぜかアラーキこと荒木経惟とその奥さん陽子さんのことがとてつもなく気になっていた。なぜ自分がこんな気持ちになったのかは覚えていないけど胸騒ぎみたいなものがして、狂ったようにネットやアート本屋で彼らの作品を調べていた。

彼の作品はパリでもとても人気があり、ギャラリーや美術館でもその作品は何度も目にしたことがあった。だけど自分からお金を払って観に行くほど正直言ってファンではなかった。

だけど陽子さんとの日々を綴った『センチメンタルな旅 冬の旅』の写真を見て、二人のエッセイを読んだ時本屋で涙が止まらなかった。二人の日常はどこにでもあるもので何も特別ではない。そんな穏やかで楽しい日常がある日突然妻の病に奪われてしまう、そしてその喪失感。

これまで”彼はどうして空の写真をよく撮っていたんだろう”と疑問に思っていたけど、それは亡き陽子さんのいる天国を思いながら撮っていたんだ。

彼女が退院してから作った夕食を彼はグロテスクに、リアルに撮った。
もしかすると彼はそれらが限られたものだと知っていたのかもしれない。
普通に毎日食べていた妻の作るご飯。それがある日無くなる恐怖感。

彼らは結婚してもずーっと恋人同士だった。

夏の暑い日に恵比寿の東京都写真美術館で ”荒木経惟 センチメンタルな旅1971−2017”を観る機会に恵まれたことは偶然とは思えないタイミングで、余韻を残しながら乗った帰りの電車の中でPanasonic の ”なんでもない普段を宝物にしよう”ってCMがずっと流れてた。
本当の宝物は新品の電化製品にあるのではなく、人間同士が作り上げた空間と感情の中にあるんだ。

1日を振り返り、平和に健康で安全に過ごせたことに感謝

それ以上のものはおまけでしかなくあまり価値を持たなくてもいいことなのかもしれない。特別なことをしなくても毎日が特別。それが地球に生かせてもらっている私たちへの最大の贈り物だと思う。



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